芹橋2丁目kOya
2024.3.28
近年、自治会のコミュニティ拠点をコアにしたまちづくり活動が実を結び、移住者や小規模事業者により賑わいをみせる地域、芹橋2丁目。足軽屋敷の残るエリアの中にひっそりと佇む「kOya」では、女性2人がそれぞれにやりたいことを持ちより、大人も子どもも垣根なく、まちに開きながら活動をしている。
2019年にまちづくりのために自治会が立ち上げたNPO法人「善利組まちづくりネット」が、取り壊し予定だった明治期の空き家を買取り、改修して始めたコミュニティ拠点「あしがるノイエ(当時の名称:Serigumi R12)」。その南隣にあった大正時代の古民家も空き家となったため、物件所有者が住居からテナントへと改修、当バンクにて情報公開し、利活用者を募集することになった。
由良さんの仕事場
由良園さんは、大学在籍時にガラス工芸作家となってからキャリアを重ね、個展や入選歴多数の生粋のアーティスト。岡山で生まれ三重、富山、金沢、東京、大阪など、制作環境を移しながら家族と共に滋賀に辿リ着いた。旦那さんの転職・転勤や2人の子育てのため、8年間制作を休業していたが、再開に向け工房を構えたいと考えていたときに物件のことを知り、友人の沼波洋子さんにシェアして使ってみないかと提案した。
沼波洋子さんは彦根市社会福祉協議会でボランティアコーディネーターとして働くかたわら、「てへぺろ社会実験室」という屋号で、仕事の枠に収まらない探求を実践しており、打ち合わせのための事務所やイベントの拠点を持ちたいと思っていた。加えて、親しい友人であり、作家として素晴らしい才能を持つ由良さんとともに場づくりができることに大きな魅力を感じ快諾。「うれしさとワクワク感、二つ返事で了承しました」と沼波さん。
沼波さんの仕事場
また、2人はもともと「あしがるノイエ」で開かれていた英語教室に通う子どもの保護者でもあった。物件の内装工事もまた同じ教室の保護者で大工の友人に依頼し、2人が思いえがく心地よい空間が完成。まちのコミュニティ拠点に集う人たちによって、空き家に再び明かりが灯ることになった。
2人の周りにはいつも子どもたちが遊ぶ風景がある
2人のタイミングが合って出来上がった「kOya」、由良さんのガラス工房と沼波さんの「てへぺろ社会実験室」の事務所のシェアオフィスだが、場の在り方については2人で話し合いを重ねたそう。近くで小さなお店ができはじめていたこともあり、収益事業を立ち上げてまちに賑わいを、という周囲の声もあったそうだが「ここは、お互いにしたいことが自由にできて、子どもたちの居場所でもあり、地域ともつながれればそれでいい」と決めた。
由良さんは「作品は取引のあるギャラリーなどすでに販売ルートがある。直売のためではなく、制作に打ち込める環境を求めていた」と語る。
展示会前には夜更けまで制作をする姿があり、子どもたちの下校時刻には遊ぶ声が聞こえてくる。2人の他にも何人かで集まってご飯を食べたり、おしゃべりしたり、そんなことが自然とおこる温かい場所になった。
「kOya」という場を構えて1年、これまでの感想を伺うと、生活と切り離された場を持つことで、いろいろなことが育ってきている実感があるという。
沼波さんは5年勤めた彦根市社会福祉協議会を退職。「この場所があるから、新しいステージに踏みだせた」と、個人の活動に注力していくことを決め、前職でのコミュニティとはつながりながら、「哲学対話」を用い誰でも安心して話せる場づくりや、認知症ケアに効果があるとされる「ケアマフ」を編むイベントなどを開催。kOyaを起点に、沼波さんの感性で福祉とインクルーシブな社会の探求を続ける。
由良さんは昨年東京での展示会準備で多忙な日々を過ごし、年明けから少し休憩期間を経て、9月の個展に向け準備を始めている。今後、毎年1回のペースで3年先まで個展がすでに決まっているそうだ。ガラスにあしらった金箔を細かく削ってモチーフを表出させる由良さんの作品は「周りの環境やその時の関心などが作品に投影される」といい、今後も様々な変化に身を委ねつつ制作に向き合いたい、と話す。
自由でありのままの2人の活動が交わる先、それぞれの世界はまだまだ広がっていく。
古民家の構造を生かし、2人のスペースを緩やかに分けた心地よい空間
information
店舗:kOya
彦根市芹橋2−6−45 (あしがるノイエ南隣)
HP:
インスタグラム:てへぺろ社会実験室@we.tehepero